臨床試験の最適化
医師はこれまでの経験・エビデンスから、
最も良い治療を患者さんに提供することを使命としています。
しかし、治療法AとBがどちらが良いかわからないときは
どうすればよいでしょうか*1?
そのような状況に限り、患者さんに最適の医療を提供するという
本来の目的から外れ、治療法AとBを比較するという臨床試験を
することが正当化されます。
臨床試験によって得られた情報(例:AがBより有効)は、
同じ疾患を持つ将来の患者さんの治療指針となります。
しかしながら、このメリットを被験者となる目の前の患者さんには
提供することができないというのをいつも申し訳なく思っています。
今回、試験中に得られる結果をシームレスに活用することで、
臨床試験の「比較」性能を担保しながら、「治療」的側面も最大化
するようなデザインについて報告している下記論文
A Bayesian adaptive design for clinical trials in rare diseases - ScienceDirect
を読みました。
具体的には、治療結果が分かるごとに
各治療の事後分布から将来的に得られる期待値を考慮して、
期待値が大きいほうに次の人を割り振るという考え方です。
ただし、これを*2完璧にやってしまうと初期の偶然によって
一方の治療法にほとんど人がいなくなってしまい、
そもそもの比較が成り立たなくなる(検出力不足)ので、
それを防ぐために
1.期待値が低い方にも少な目(0.1など)の可能性で割り振る
2.試験終了時までに最低限各群必要な症例数を設定する
という2つの制約をつけることを提案しています*3。
割当決定プログラムも論文の参考としてつけられており*4、参考になります。
一番の問題はデザイン上、盲検化が出来ないことです。
その他にもいろいろと制限はありますが、臨床試験を受ける
患者さんにも最大限メリットを提供しようというベースの考え方
自体は大変共感できました。
使っているフレームワークは古くからある(多腕)バンデット問題です。
これは複数のスロットマシーンがあり、それぞれの当たり確率が
わからないときに、どういう戦略をとれば一番報酬を大きくできるか
という問題です。
治療法の選択に有効そうですので、これから勉強していきたいと思います。